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TEKIJÄTIEDOT

坊っちゃん

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Read by ekzemplaro for LibriVox in 2013.

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。

Olen aina ollut onnettomuusherkkä, ja se on jatkunut lapsuudesta asti, mikä johtuu todennäköisesti perinnöllisestä riskialttiudestani.

小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。

Kerran pudosin alakoulun toisesta kerroksesta ja olin noin viikon ajan liikuntakyvytön.

なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。

Jotkut saattavat miettiä, miksi tein tuollaisen typeryksen.

別段深い理由でもない。

Ei ole mitään erityistä syytä.

新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。

Kun olin uuden rakennuksen toisessa kerroksessa ja työnsin pääni ulos ikkunasta, eräs luokkatoverini sanoi pilkaten, ettei kukaan voisi hypätä sieltä alas, vaikka kuinka yrittäisi. Pelkuri!

と囃したからである。

Siitä syystä päätin hypätä.

小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

Kun palasin kotiin kantamassa koulutarvikkeita, isäni kysyi suuresti ihmetellen, voisiko joku hypätä toisesta kerroksesta ja satuttaa itsensä. Vastasin, etten aikonut jättää tilaisuutta väliin ja näyttäisin kykyjäni.

親類のものから西洋製のナイフを貰って奇麗な刃を日に翳して、友達に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。幸ナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕は死ぬまで消えぬ。

Sain sukulaiselta länsimaalaisen veitsen, jonka terä oli niin kiiltävä, että halusin näyttää sitä ystävilleni. Yksi sanoi, että veitsi saattaisi näyttää hyvältä, mutta ei todennäköisesti leikkaa kunnolla. Haastin hänet leikkaamaan sormeni, mikä ei onnistunut, koska veitsi oli pieni ja peukaluni luu oli liian vahva. Silti arpi ei koskaan katoa.

庭を東へ二十歩に行き尽すと、南上がりにいささかばかりの菜園があって、真中に栗の木が一本立っている。

Kahdellakymmenellä askeleella itään sijaitsee pieni kasvipuutarha, jonka keskellä kasvaa pähkinäpuu.

これは命より大事な栗だ。

Nämä pähkinät ovat minulle tärkeämpiä kuin elämäni itsekin.

実の熟する時分は起き抜けに背戸を出て落ちた奴を拾ってきて、学校で食う。

Kun pähkinät kypsyvät, nousen aamun varhaisina tunteina ulos ja poimin pudonneet pähkinät koulussa syötäväksi.

菜園の西側が山城屋という質屋の庭続きで、この質屋に勘太郎という十三四の倅が居た。

Kasvipuutarhan länsiosa rajoittuu lainaamotalon, Yamashiro-yán, pihaan. Tässä lainaamotalossa oli noin 13-14-vuotias poika nimeltä Kantarō. 别无他因。 我从新房子的二楼探出头去时,一个同学开玩笑地说,无论怎么吹牛,也休想从那里跳下来。胆小鬼! 于是我回答说,我下次一定跳下去让他们看看。 从亲戚那里得到一把西洋刀后,因为刀片很亮,我

勘太郎は無論弱虫である。

进了城门,向东走二十步,便是一片向南的小园子,园子中央竖着一棵栗树。 这是比生命更重要的栗子。 栗子成熟时,每天天不亮,我就出去捡掉落的,带到学校去吃。 小园子的西边紧挨着山城屋当铺,这家当铺有个十三四岁的儿子叫勘太郎。 勘太郎当然是个胆小鬼。

弱虫の癖に四つ目垣を乗りこえて、栗を盗みにくる。

胆小鬼偏偏翻过四尺高的栅栏来偷栗子。

ある日の夕方折戸の蔭に隠れて、とうとう勘太郎を捕まえてやった。その時勘太郎は逃げ路を失って、一生懸命に飛びかかってきた。

一天傍晚,我躲在折门的阴影里,终于捉住了勘太郎。这时勘太郎失去了逃路,只得拼命扑上来。

向うは二つばかり年上である。

对方只比我大两岁。

弱虫だが力は強い。

胆小鬼力气倒不小。

鉢の開いた頭を、こっちの胸へ宛ててぐいぐい押した拍子に、勘太郎の頭がすべって、おれの袷の袖の中にはいった。

他把打开的脑袋紧紧贴在我胸口时,勘太郎的脑袋滑到了我的外套袖子里。

邪魔になって手が使えぬから、無暗に手を振ったら、袖の中にある勘太郎の頭が、右左へぐらぐら靡いた。しまいに苦しがって袖の中から、おれの二の腕へ食い付いた。痛かったから勘太郎を垣根へ押しつけておいて、足搦をかけて向うへ倒してやった。山城屋の地面は菜園より六尺がた低い。勘太郎は四つ目垣を半分崩して、自分の領分へ真逆様に落ちて、ぐうと云った。

因为挡着手,我只能用手乱挥,勘太郎的脑袋就在袖子里左右摇晃,最后终于从袖子里咬住了我的二头肌。我疼得厉害,就把勘太郎推到栅栏上,抓住他的脚,把他翻了过来。山城屋的地面比小园子低六尺。勘太郎把四尺高的栅栏拆了一半,跌进自己的地盘里,爬了起来。

勘太郎が落ちるときに、おれの袷の片袖がもげて、急に手が自由になった。

勘太郎跌下来时,我的外套袖子被扯掉了,手一下子就解放了。

その晩母が山城屋に詫びに行ったついでに袷の片袖も取り返して来た。

那天晚上,母亲去山城屋道歉时,还把那只袖子拿回来了。

この外いたずらは大分やった。

这回恶作剧可真是大获成功了。

大工の兼公と肴屋の角をつれて、茂作の人参畠をあらした事がある。

我还带木匠兼公和肉铺的角,翻了茂作的胡萝卜田。

人参の芽が出揃わぬ処へ藁が一面に敷いてあったから、その上で三人が半日相撲をとりつづけに取ったら、人参がみんな踏みつぶされてしまった。

胡萝卜芽还没长出来,田里全铺着稻草。三个人在稻草上摔跤玩了半天,最后把所有的胡萝卜都踩坏了。

古川の持っている田圃の井戸を埋めて尻を持ち込まれた事もある。

古川家地里的井也被填上了,他还被拖着屁股回家了。

太い孟宗の節を抜いて、深く埋めた中から水が湧き出て、そこいらの稲にみずがかかる仕掛であった。

他们把粗大的孟宗节挖出来,深深埋在地里,结果水从井里涌出来,把附近的稻田都浇湿了。

その時分はどんな仕掛か知らぬから、石や棒ちぎれをぎゅうぎゅう井戸の中へ挿し込んで、水が出なくなったのを見届けて、うちへ帰って飯を食っていたら、古川が真赤になって怒鳴り込んで来た。

当时我不知道怎么回事,就把石头和断枝塞进井里,看着水不再涌出来,然后回家吃饭。结果古川气得脸红脖子粗地赶来质问我。

たしか罰金を出して済んだようである。

最后好像只是罚了点钱了事。

おやじはちっともおれを可愛がってくれなかった。母は兄ばかり贔屓にしていた。この兄はやに色が白くって、芝居の真似をして女形になるのが好きだった。おれを見る度にこいつはどうせ碌なものにはならないと、おやじが云った。乱暴で乱暴で行く先が案じられると母が云った。なるほど碌なものにはならない。ご覧の通りの始末である。行く先が案じられたのも無理はない。ただ懲役に行かないで生きているばかりである。

父亲一点也不喜欢我。他只偏爱哥哥。那个哥哥皮肤白皙,喜欢模仿戏里的旦角。父亲每次看到我,都说我肯定成不了什么大器。母亲也说我肯定没出息。果然没出息。看看现在这副模样。说我没出息也不为过。至少我没进监狱,还活着。

母が病気で死ぬ二三日前台所で宙返りをしてへっついの角で肋骨を撲って大いに痛かった。

母亲生病去世前两三天,我在厨房翻跟头,结果肋骨被撞得很疼。

母が大層怒って、お前のようなものの顔は見たくないと云うから、親類へ泊りに行っていた。

母亲大发雷霆,说“我不想再看到你这种人”,于是我就去亲戚家住了。

するととうとう死んだと云う報知が来た。そう早く死ぬとは思わなかった。

结果很快就传来母亲去世的消息。我真没想到她会走得这么早。

そんな大病なら、もう少し大人しくすればよかったと思って帰って来た。そうしたら例の兄がおれを親不孝だ、おれのために、おっかさんが早く死んだんだと云った。

我回到家后想,既然病得这么严重,应该更乖一点的。结果那个哥哥又说我不孝,害得母亲早早离开人世。

口惜しかったから、兄の横っ面を張って大変叱られた。

我很生气,扇了他一耳光,结果被狠狠训了一顿。

母が死んでからは、おやじと兄と三人で暮していた。

母亲去世后,家里就剩下父亲和哥哥三个人了。

おやじは何にもせぬ男で、人の顔さえ見れば貴様は駄目だ駄目だと口癖のように云っていた。

父亲是个很随便的人,只要看你一眼,就会习惯性地说“你这种人肯定不行,不行!”

何が駄目なんだか今に分らない。

现在我也不明白他说我哪里不行了。

妙なおやじがあったもんだ。

真是个奇怪的父亲啊。

兄は実業家になるとか云ってしきりに英語を勉強していた。

哥哥老是说要成为商人,所以拼命学习英语。

元来女のような性分で、ずるいから、仲がよくなかった。

他天生就有点娘娘腔,又很狡猾,所以我们相处得不太好。

十日に一遍ぐらいの割で喧嘩をしていた。

我们大约每十天就会吵一次架。

ある時将棋をさしたら卑怯な待駒をして、人が困ると嬉しそうに冷やかした。

有一次下象棋,他故意留了弱棋,当别人遇到困难时,他还幸灾乐祸地嘲笑别人。

あんまり腹が立ったから、手に在った飛車を眉間へ擲きつけてやった。

我实在忍无可忍了,就抓起手边的一把飞镖,朝他的眉心掷了过去。

眉間が割れて少々血が出た。

他的眉心被划破了,流了点血。

兄がおやじに言付けた。

哥哥已经去责怪父亲了。

おやじがおれを勘当すると言い出した。

父亲说要和我断绝关系。

その時はもう仕方がないと観念して先方の云う通り勘当されるつもりでいたら、十年来召し使っている清という下女が、泣きながらおやじに詫まって、ようやくおやじの怒りが解けた。

那时我已经无计可施,准备听天由命了。但为我服务了十年的女佣清,哭着向父亲道歉,终于平息了父亲的怒火。

それにもかかわらずあまりおやじを怖いとは思わなかった。

即便如此,我还是不太怕父亲。

かえってこの清と云う下女に気の毒であった。

相反,我倒是为这个叫清的女佣感到难过。

この下女はもと由緒のあるものだったそうだが、瓦解のときに零落して、つい奉公までするようになったのだと聞いている。

据说这个女佣原本出身名门,但家道中落后,她不得不出来做佣人了。

だから婆さんである。この婆さんがどういう因縁か、おれを非常に可愛がってくれた。不思議なものである。母も死ぬ三日前に愛想をつかした――おやじも年中持て余している――町内では乱暴者の悪太郎と爪弾きをする――このおれを無暗に珍重してくれた。

所以她现在成了老太婆。奇怪的是,这个老太婆特别喜欢我。就在我母亲去世的前三天,她也对我特别亲切——父亲也一直对我很好——在镇上,她还和恶名昭彰的阿三打架——但她却莫名其妙地很珍视我。

おれは到底人に好かれる性でないとあきらめていたから、他人から木の端のように取り扱われるのは何とも思わない、かえってこの清のようにちやほやしてくれるのを不審に考えた。

我一直认为自己不讨人喜欢,所以别人对我冷淡无情,我也无所谓。但清对我的热情关怀,反而让我觉得奇怪。

清は時々台所で人の居ない時に「あなたは真っ直でよいご気性だ」と賞める事が時々あった。

清有时会在厨房没人的时候夸我:“你这人真诚善良,性格很好。”

しかしおれには清の云う意味が分からなかった。

但我根本不明白她的意思。

好い気性なら清以外のものも、もう少し善くしてくれるだろうと思った。

我觉得如果一个人性格好,除了清之外,其他人也会对我好一些的。

清がこんな事を云う度におれはお世辞は嫌いだと答えるのが常であった。すると婆さんはそれだから好いご気性ですと云っては、嬉しそうにおれの顔を眺めている。

每次清这么说,我都会回答说我不喜欢别人拍马屁。然后老太婆就会笑着说:“那说明你性格很好啊。”接着满意地看着我的脸。

自分の力でおれを製造して誇ってるように見える。

她似乎为自己培养出了一个值得骄傲的儿子。

少々気味がわるかった。

这让我有点不自在。

母が死んでから清はいよいよおれを可愛がった。

自从母亲去世后,清就更加宠爱我了。

時々は小供心になぜあんなに可愛がるのかと不審に思った。

有时我会孩子气地想,她为什么要对我这么好呢?

つまらない、廃せばいいのにと思った。

真烦人,要是她不宠我就好了。

気の毒だと思った。

我觉得这真让人头疼。

それでも清は可愛がる。

即便如此,清还是继续宠着我。

折々は自分の小遣いで金鍔や紅梅焼を買ってくれる。

他时不时会用自己的零花钱给我买金手链和红梅烧陶瓷工艺品。

寒い夜などはひそかに蕎麦粉を仕入れておいて、いつの間にか寝ている枕元へ蕎麦湯を持って来てくれる。

在寒冷的夜晚,他会悄悄地买来面粉,然后不知不觉地把面汤端到我枕边。

時には鍋焼饂飩さえ買ってくれた。

有时他甚至会给我买火锅面条。

ただ食い物ばかりではない。

但他宠我的不只是吃的。

靴足袋ももらった。

他还送给我鞋子和袜子。

鉛筆も貰った、帳面も貰った。

他还送给我铅笔和账本。

これはずっと後の事であるが金を三円ばかり貸してくれた事さえある。

这是在很久以后的事了,但他甚至还借给我三元钱。

何も貸せと云った訳ではない。

他并没有说要借钱给我。

向うで部屋へ持って来てお小遣いがなくてお困りでしょう、お使いなさいと云ってくれたんだ。

他把钱带到我的房间,对我说:“你可能手头紧,用去吧。”

おれは無論入らないと云ったが、是非使えと云うから、借りておいた。

我当然说不必,但他坚持要我收下,我就收下了。

実は大変嬉しかった。

说实话,我真的很感动。

その三円を蝦蟇口へ入れて、懐へ入れたなり便所へ行ったら、すぽりと後架の中へ落してしまった。

我把那三元钱放在口袋里,然后去厕所,结果钱掉到了便池里。

仕方がないから、のそのそ出てきて実はこれこれだと清に話したところが、清は早速竹の棒を捜して来て、取って上げますと云った。

没办法,我只好慢慢爬出来,告诉清这件事。清立刻找来一根竹竿,把钱捞了上来。

しばらくすると井戸端でざあざあ音がするから、出てみたら竹の先へ蝦蟇口の紐を引き懸けたのを水で洗っていた。

过了一会儿,我听到井口传来响声,出去一看,发现清正在用水冲洗竹竿尖端挂着的钱袋带子。

それから口をあけて壱円札を改めたら茶色になって模様が消えかかっていた。

然后我打开钱袋,发现里面的一元纸币已经变色了,图案也快看不清了。

清は火鉢で乾かして、これでいいでしょうと出した。

清用火盆把钱烘干,然后说:“这样应该没问题了。”

ちょっとかいでみて臭いやと云ったら、それじゃお出しなさい、取り換えて来て上げますからと、どこでどう胡魔化したか札の代りに銀貨を三円持って来た。

我拿起来一看,发现钱已经臭了。清说:“那你就收下吧,我去换一张新的,然后再给你。” 结果他不知道从哪儿搞来三元银币,递给我说:“就用这个代替纸币吧。”

この三円は何に使ったか忘れてしまった。

我完全忘了这三元钱是用来干什么的。

今に返すよと云ったぎり、返さない。

我说要还给他,结果他一直拖着不还。

今となっては十倍にして返してやりたくても返せない。

即使现在我想还给他十倍的钱,也没机会了。

清が物をくれる時には必ずおやじも兄も居ない時に限る。

清每次送我东西时,总是在我父亲和哥哥都不在场的情况下。

おれは何が嫌いだと云って人に隠れて自分だけ得をするほど嫌いな事はない。兄とは無論仲がよくないけれども、兄に隠して清から菓子や色鉛筆を貰いたくはない。

我最讨厌那种自己偷偷得好处,却不让别人知道的人。我和哥哥关系本来就不太好,但我也不想背着他从清那里拿糖果和彩色铅笔。

なぜ、おれ一人にくれて、兄さんには遣らないのかと清に聞く事がある。

有时我会问清:“为什么每次只给我,不给我哥哥呢?”

すると清は澄したものでお兄様はお父様が買ってお上げなさるから構いませんと云う。これは不公平である。

清说:“我哥哥的钱都是我父亲给的,所以他不用管。” 这太不公平了。

おやじは頑固だけれども、そんな依怙贔負はせぬ男だ。しかし清の眼から見るとそう見えるのだろう。全く愛に溺れていたに違いない。

我父亲虽然固执,但他从不偏袒任何人。不过在清看来他就是这样。他肯定是被爱冲昏了头脑。

元は身分のあるものでも教育のない婆さんだから仕方がない。

毕竟她只是个没受过教育的普通老太婆,能怎么办呢?

単にこればかりではない。

但问题不止于此。

贔負目は恐ろしいものだ。

偏袒的目光真是可怕。

清はおれをもって将来立身出世して立派なものになると思い込んでいた。

清一直以为我将来会出人头地,大有作为。

その癖勉強をする兄は色ばかり白くって、とても役には立たないと一人できめてしまった。

而她却认为哥哥虽然学习刻苦,却华而不实,一点用都没有。

こんな婆さんに逢っては叶わない。自分の好きなものは必ずえらい人物になって、嫌いなひとはきっと落ち振れるものと信じている。

遇到这样的人真是没辙。她坚信自己喜欢的人一定会出人头地,而自己讨厌的人注定会一败涂地。

おれはその時から別段何になると云う了見もなかった。

从那时起,我对未来也没有什么明确的规划了。

しかし清がなるなると云うものだから、やっぱり何かに成れるんだろうと思っていた。

不过既然清一直说他将来会成就一番事业,我还是觉得他总能有所作为的。

今から考えると馬鹿馬鹿しい。ある時などは清にどんなものになるだろうと聞いてみた事がある。

现在看来真是太天真了。有一次我还问清他将来会成为怎样的人。

ところが清にも別段の考えもなかったようだ。

但清似乎对此也没有什么明确的想法。

ただ手車へ乗って、立派な玄関のある家をこしらえるに相違ないと云った。

他只说自己会开卡车,然后建一栋带漂亮门厅的房子。

それから清はおれがうちでも持って独立したら、一所になる気でいた。

从那以后,清一直希望我能在家里独立生活。

どうか置いて下さいと何遍も繰り返して頼んだ。おれも何だかうちが持てるような気がして、うん置いてやると返事だけはしておいた。

我一再请求他别把这事放心上。虽然我也觉得自己或许能在家里立足,但我只是应付他说,“那就放手吧。”

ところがこの女はなかなか想像の強い女で、あなたはどこがお好き、麹町ですか麻布ですか、お庭へぶらんこをおこしらえ遊ばせ、西洋間は一つでたくさんですなどと勝手な計画を独りで並べていた。

不过这个女人想象力实在太丰富了。她会独自列出各种奇怪的计划,比如“你喜欢哪儿?是御徒町还是麻布?” 然后在花园里挂起吊床玩耍,还说西式房间一间就够了,反正房间多得是。

その時は家なんか欲しくも何ともなかった。

那时我对拥有自己的房子一点兴趣都没有。

西洋館も日本建も全く不用であったから、そんなものは欲しくないと、いつでも清に答えた。

我总是告诉清,我根本不想要西式房子,日本式房子也完全没必要。

すると、あなたは欲がすくなくって、心が奇麗だと云ってまた賞めた。清は何と云っても賞めてくれる。

然后清又会夸我说,我不贪心,是个善良的人。

母が死んでから五六年の間はこの状態で暮していた。

母亲去世后的五六年间,我们一直过着这样的生活。

おやじには叱られる。

父亲会责骂我的。

兄とは喧嘩をする。

我和哥哥也会吵架。

清には菓子を貰う、時々賞められる。

清会给我糖果吃,还时不时夸夸我。

別に望みもない。

我对未来也没有什么特别的期待。

これでたくさんだと思っていた。

我曾以为这样就足够了。

ほかの小供も一概にこんなものだろうと思っていた。

我还以为其他小孩子也都是这样的。

ただ清が何かにつけて、あなたはお可哀想だ、不仕合だと無暗に云うものだから、それじゃ可哀想で不仕合せなんだろうと思った。

只是清老是说我可怜、没用之类的话,所以我也觉得自己真是又可怜又没用。

その外に苦になる事は少しもなかった。

除此之外,我的生活中并没有什么特别痛苦的事情。

ただおやじが小遣いをくれないには閉口した。

只是父亲不肯给我零花钱,这点让我很不满。

母が死んでから六年目の正月におやじも卒中で亡くなった。

母亲去世六年后的正月里,父亲也因中风去世了。

その年の四月におれはある私立の中学校を卒業する。六月に兄は商業学校を卒業した。兄は何とか会社の九州の支店に口があって行かなければならん。

那年四月,我从一所私立中学毕业。六月,我哥哥从一所商业学校毕业。哥哥在一家公司的九州分部找到了工作,必须去那里工作。

おれは東京でまだ学問をしなければならない。

而我还得继续在东京求学。

兄は家を売って財産を片付けて任地へ出立すると云い出した。おれはどうでもするがよかろうと返事をした。

哥哥说要卖掉房子,处理好财产,然后去任职地。我说随便你怎么做吧。

どうせ兄の厄介になる気はない。

反正我也不想给哥哥添麻烦。

世話をしてくれるにしたところで、喧嘩をするから、向うでも何とか云い出すに極っている。

即使有人愿意照顾我,我也会和他们吵架,所以我宁愿自己想办法解决问题。

なまじい保護を受ければこそ、こんな兄に頭を下げなければならない。

正是因为有父亲这样的保护,我才不得不对这样的哥哥低头。

牛乳配達をしても食ってられると覚悟をした。

我已经做好了被利用的准备。

兄はそれから道具屋を呼んで来て、先祖代々の瓦落多を二束三文に売った。

从那以后,哥哥叫来了一个二手商,把祖传的瓦片以低价卖掉了。

家屋敷はある人の周旋である金満家に譲った。

房子的所有权转让给了金满家,他们是经人介绍认识的。

この方は大分金になったようだが、詳しい事は一向知らぬ。

听说金满家赚了不少钱,但具体情况我一概不知。

おれは一ヶ月以前から、しばらく前途の方向のつくまで神田の小川町へ下宿していた。

一个月前,我一直住在神田的小川町,等着看未来会怎样。

清は十何年居たうちが人手に渡るのを大いに残念がったが、自分のものでないから、仕様がなかった。あなたがもう少し年をとっていらっしゃれば、ここがご相続が出来ますものをとしきりに口説いていた。

清在那里住了十几年,对房子被别人买走感到非常遗憾,但毕竟不是他自己的东西,所以也无可奈何。他一直劝我说,如果你再大几岁,这房子本来就是你继承的。

もう少し年をとって相続が出来るものなら、今でも相続が出来るはずだ。婆さんは何も知らないから年さえ取れば兄の家がもらえると信じている。

如果能再大几岁继承的话,现在也应该能继承了。不过奶奶什么都不懂,还以为只要年龄到了,房子就会自动归哥哥所有。

兄とおれはかように分れたが、困ったのは清の行く先である。

哥哥和我就这样分道扬镳了,但现在最头疼的还是清的去向问题。

兄は無論連れて行ける身分でなし、清も兄の尻にくっ付いて九州下りまで出掛ける気は毛頭なし、と云ってこの時のおれは四畳半の安下宿に籠って、それすらもいざとなれば直ちに引き払わねばならぬ始末だ。どうする事も出来ん。清に聞いてみた。

哥哥当然没法带他走,清也绝对不想跟着哥哥去九州。当时我住在一个四榻半的廉价旅馆里,如果有紧急情况,还得立刻搬走。真是无计可施。我问了清该怎么办。

どこかへ奉公でもする気かねと云ったらあなたがおうちを持って、奥さまをお貰いになるまでは、仕方がないから、甥の厄介になりましょうとようやく決心した返事をした。この甥は裁判所の書記でまず今日には差支えなく暮していたから、今までも清に来るなら来いと二三度勧めたのだが、清はたとい下女奉公はしても年来住み馴れた家の方がいいと云って応じなかった。

他说他想去当佣人,但我说家里有房子,等妻子继承了再说吧。他最后决定当侄子的负担。这侄子是法院的书记员,现在生活得很安稳。他曾多次劝清去他那儿,但清说即使当佣人,也宁愿住在自己熟悉的家里。

しかし今の場合知らぬ屋敷へ奉公易えをして入らぬ気兼を仕直すより、甥の厄介になる方がましだと思ったのだろう。

不过现在看来,不如去当侄子的负担,总比搬到陌生的房子里当佣人强。

それにしても早くうちを持ての、妻を貰えの、来て世話をするのと云う。

但还是希望能早点买房子,娶妻,照顾家人。

親身の甥よりも他人のおれの方が好きなのだろう。

看来他还是更喜欢亲侄子,而不是我这个外人。

九州へ立つ二日前兄が下宿へ来て金を六百円出してこれを資本にして商買をするなり、学資にして勉強をするなり、どうでも随意に使うがいい、その代りあとは構わないと云った。

出发九州的前两天,哥哥来旅馆给了清六百日元,说用这笔钱做生意、学习,或者随便怎么用都可以,但剩下的钱他不管了。

兄にしては感心なやり方だ、何の六百円ぐらい貰わんでも困りはせんと思ったが、例に似ぬ淡泊な処置が気に入ったから、礼を云って貰っておいた。

哥哥这种做法挺明智的。我觉得就算不给这六百日元,也没关系,但我很欣赏他这种冷静的处事方式,所以还是接下这笔钱了。

兄はそれから五十円出してこれをついでに清に渡してくれと云ったから、異議なく引き受けた。

哥哥又拿出五十日元,让清转交给我,我欣然接受了。

二日立って新橋の停車場で分れたぎり兄にはその後一遍も逢わない。

两天后,在新桥车站分道扬镳,从此再也没见过哥哥。

おれは六百円の使用法について寝ながら考えた。

我躺在床上思考这六百日元该怎么用。

商買をしたって面倒くさくって旨く出来るものじゃなし、ことに六百円の金で商買らしい商買がやれる訳でもなかろう。よしやれるとしても、今のようじゃ人の前へ出て教育を受けたと威張れないからつまり損になるばかりだ。

做生意挺麻烦的,也不见得能赚到钱。就算能赚到钱,现在也拿不出手显摆,纯粹是亏本买卖。

資本などはどうでもいいから、これを学資にして勉強してやろう。

反正资金多少无所谓,还是用这笔钱学习吧。

六百円を三に割って一年に二百円ずつ使えば三年間は勉強が出来る。三年間一生懸命にやれば何か出来る。

把六百日元分成三份,每年用两百日元,这样就能学习三年了。只要三年里全力以赴,总能有所收获的。

それからどこの学校へはいろうと考えたが、学問は生来どれもこれも好きでない。

接下来我考虑去哪个学校,但我天生对学习没什么兴趣。

ことに語学とか文学とか云うものは真平ご免だ。

尤其是语言和文学之类的科目,我更是敬而远之。

新体詩などと来ては二十行あるうちで一行も分らない。

比如新体诗之类的,二十行里我连一行都看不懂。

どうせ嫌いなものなら何をやっても同じ事だと思ったが、幸い物理学校の前を通り掛ったら生徒募集の広告が出ていたから、何も縁だと思って規則書をもらってすぐ入学の手続きをしてしまった。

反正都是不喜欢的科目,做什么都一样。幸运的是,我路过物理学校时,他们正在招学生。我一时兴起,拿了份招生简章,立刻就办了入学手续。

今考えるとこれも親譲りの無鉄砲から起った失策だ。

现在想想,这也是我继承自父母的鲁莽之举。

三年間まあ人並に勉強はしたが別段たちのいい方でもないから、席順はいつでも下から勘定する方が便利であった。しかし不思議なもので、三年立ったらとうとう卒業してしまった。自分でも可笑しいと思ったが苦情を云う訳もないから大人しく卒業しておいた。

三年里我也算正常学习了,但成绩并不出色。所以每次点名时,老师都习惯从最后开始点。我也不知道为什么,但三年一到,我就顺利毕业了。我自己也觉得挺奇怪的,但又没法抱怨什么,就乖乖毕业了。

卒業してから八日目に校長が呼びに来たから、何か用だろうと思って、出掛けて行ったら、四国辺のある中学校で数学の教師が入る。月給は四十円だが、行ってはどうだという相談である。おれは三年間学問はしたが実を云うと教師になる気も、田舎へ行く考えも何もなかった。もっとも教師以外に何をしようと云うあてもなかったから、この相談を受けた時、行きましょうと即席に返事をした。これも親譲りの無鉄砲が祟ったのである。

毕业八天后,校长找我,说有个中学要招数学老师,月薪四十日元,让我去试试。我虽然学了三年,但说实话,我既没想过当老师,也没想过去乡下教书。不过除了当老师,也没别的出路了。所以当时我就随口答应了。这又是我继承自父母的鲁莽之举。

引き受けた以上は赴任せねばならぬ。

既然接了任务,就得去上任了。

この三年間は四畳半に蟄居して小言はただの一度も聞いた事がない。

这三年我一直闭门不出,也没人说过我什么。

喧嘩もせずに済んだ。

连架都没吵过。

おれの生涯のうちでは比較的呑気な時節であった。

这是我人生中比较平静的时期。

しかしこうなると四畳半も引き払わなければならん。

但既然这样,那我也得搬出这间四叠半的房间了。

生れてから東京以外に踏み出したのは、同級生と一所に鎌倉へ遠足した時ばかりである。

除了和同学去镰仓远足外,我出生以来从未离开过东京。

今度は鎌倉どころではない。

这次可不是去镰仓了。

大変な遠くへ行かねばならぬ。

我得去个更远的地方。

地図で見ると海浜で針の先ほど小さく見える。

从地图上看,那个地方小得就像海边的一粒针。

どうせ碌な所ではあるまい。

反正肯定不是什么好地方。

どんな町で、どんな人が住んでるか分らん。分らんでも困らない。心配にはならぬ。

我不知道那是个什么样的城镇,也不知道那里住着什么样的人。但即便如此,我也不在乎。

ただ行くばかりである。

我只管出发就行了。

もっとも少々面倒臭い。

虽然有点麻烦,但也无伤大雅。

家を畳んでからも清の所へは折々行った。

收拾好行李后,我还是时不时地去清的家看看。

清の甥というのは存外結構な人である。おれが行くたびに、居りさえすれば、何くれと款待なしてくれた。清はおれを前へ置いて、いろいろおれの自慢を甥に聞かせた。

清的侄子是个非常好的人。我每次去,只要他在场,总会热情地招待我。清总是把我介绍给他侄子,然后夸夸其谈地炫耀我。

今に学校を卒業すると麹町辺へ屋敷を買って役所へ通うのだなどと吹聴した事もある。

有传言说,我一毕业就会在御茶水附近买栋房子,然后去政府部门上班。

独りで極めて一人で喋舌るから、こっちは困まって顔を赤くした。

我一个人说个不停,把他弄得满脸通红。

それも一度や二度ではない。

这种情况可不止一次两次了。

折々おれが小さい時寝小便をした事まで持ち出すには閉口した。

有一次,他甚至提起我小时候尿床的事,这真让我无言以对。

甥は何と思って清の自慢を聞いていたか分らぬ。

不知道侄子听了清的这些炫耀后,心里会怎么想。

ただ清は昔風の女だから、自分とおれの関係を封建時代の主従のように考えていた。

不过清毕竟是旧时代的女人,她把我和她的关系看作是封建时代的主仆关系。

自分の主人なら甥のためにも主人に相違ないと合点したものらしい。甥こそいい面の皮だ。

她显然认为,只要是她的主人,侄子也应该听从她的命令。看来侄子真是脸皮厚得离谱。

いよいよ約束が極まって、もう立つと云う三日前に清を尋ねたら、北向きの三畳に風邪を引いて寝ていた。

终于到了约定的日子,三天前我去看清时,他正躺在北向的三榻房里,感冒发烧呢。

おれの来たのを見て起き直るが早いか、坊っちゃんいつ家をお持ちなさいますと聞いた。

他一看到我来就立刻坐了起来,然后问我:“小子,你什么时候搬出去啊?”

卒業さえすれば金が自然とポッケットの中に湧いて来ると思っている。

他以为只要毕业了,钱就会自动出现在他的口袋里。

そんなにえらい人をつらまえて、まだ坊っちゃんと呼ぶのはいよいよ馬鹿気ている。

把这么优秀的人叫做“小子”,真是太不像话了。

おれは単簡に当分うちは持たない。

反正我暂时是不会要孩子了。

田舎へ行くんだと云ったら、非常に失望した容子で、胡麻塩の鬢の乱れをしきりに撫でた。

我说要回乡下,他立刻很失望的样子,用手不停地抚摸着自己乱蓬蓬的头发。

あまり気の毒だから「行く事は行くがじき帰る。

真是让人无语:“去是肯定要去的,但我肯定会回来的。”

来年の夏休みにはきっと帰る」と慰めてやった。

我安慰他道:明年暑假我肯定会回来的。

それでも妙な顔をしているから「何を見やげに買って来てやろう、何が欲しい」と聞いてみたら「越後の笹飴が食べたい」と云った。

但他还是一脸不高兴,我问他:“你想带点什么纪念品回去?” 他说:“我想吃越后县的竹糖。”

越後の笹飴なんて聞いた事もない。

我连越后县的竹糖是什么都不知道。

第一方角が違う。

首先,方向就错了。

「おれの行く田舎には笹飴はなさそうだ」と云って聞かしたら「そんなら、どっちの見当です」と聞き返した。

我说:“乡下那边应该没有竹糖吧。” 他反问:“那你说去哪儿?”

「西の方だよ」と云うと「箱根のさきですか手前ですか」と問う。

我说:“西边吧。” 他又问:“箱根前面还是后面?”

随分持てあました。

我真是被问得无话可说了。

出立の日には朝から来て、いろいろ世話をやいた。

出发那天,他一大早就来了,帮我忙前忙后。

来る途中小間物屋で買って来た歯磨と楊子と手拭をズックの革鞄に入れてくれた。

路上他在小杂货店买了牙刷、牙签和毛巾,装在一个Zuck牌的皮包里。

そんな物は入らないと云ってもなかなか承知しない。

我说这些东西装不下,但他就是不听。

車を並べて停車場へ着いて、プラットフォームの上へ出た時、車へ乗り込んだおれの顔をじっと見て「もうお別れになるかも知れません。

火车停靠在站台上时,他仔细看了看上车的我的脸,说:“说不定这就是我们最后一次见面了。”

随分ご機嫌よう」と小さな声で云った。

他小声说:“好好保重。”

目に涙が一杯たまっている。

我的眼里盈满了泪水。

おれは泣かなかった。

但我没有哭。

しかしもう少しで泣くところであった。

不过我差点就哭了。

汽車がよっぽど動き出してから、もう大丈夫だろうと思って、窓から首を出して、振り向いたら、やっぱり立っていた。何だか大変小さく見えた。

火车刚开动,我以为安全了,就把头伸出窗外回头看,他还在那儿站着,看起来特别渺小。

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