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ろまん燈籠

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Read by ekzemplaro for LibriVox in 2012.

その一

八年まえに亡くなった、あの有名な洋画の大家、入江新之助氏の遺家族は皆すこし変っているようである。

八年前去世的著名电影导演新藏英三郎的家人似乎都有些古怪。

いや、変調子というのではなく、案外そのような暮しかたのほうが正しいので、かえって私ども一般の家庭のほうこそ変調子になっているのかも知れないが、とにかく、入江の家の空気は、普通の家のそれとは少し違っているようである。

倒不是说他们行为怪异,而是他们这种生活方式反倒显得正常。说不定我们普通家庭才更像他们家那样古怪呢?总之,英三郎家的氛围和普通家庭还是有些不同的。

この家庭の空気から暗示を得て、私は、よほど前に一つの短篇小説を創ってみた事がある。

受这个家庭氛围的启发,我很久以前曾写过一篇短篇小说。

私は不流行の作家なので、創った作品を、すぐに雑誌に載せてもらう事も出来ず、その短篇小説も永い間、私の机の引き出しの底にしまわれたままであったのである。

我是个不受欢迎的作家,所以没法很快让我的作品在杂志上发表。这篇短篇小说也一直被压在我的书桌抽屉底部,尘封多年。

その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、謂わば筐底深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏めにして、いきなり単行本として出版したのである。

此外,我还有三四篇未发表的作品,仿佛深藏在箱底。去年初春,我把这些作品整理成册,突然就出版成单行本了。

まずしい創作集ではあったが、私には、いまでも多少の愛着があるのである。

虽然这只是一本平庸的创作集,但至今我对它仍怀有几分感情。

なぜなら、その創作集の中の作品は、一様に甘く、何の野心も持たず、ひどく楽しげに書かれているからである。

因为这本创作集里的作品都写得比较轻松,没有什么野心,写起来也特别开心。

いわゆる力作は、何だかぎくしゃくして、あとで作者自身が読みかえしてみると、いやな気がしたり等するものであるが、気楽な小曲には、そんな事が無いのである。

所谓的力作,往往结构生硬,作者自己再读一遍,都会觉得不满意。但轻松的小品文就不会有这些问题。

れいに依って、その創作集も、あまり売れなかったようであるが、私は別段その事を残念にも思っていない。

据说这本创作集销量不佳,但我倒不觉得遗憾。

売れなくて、よかったとさえ思っている。

销量不佳,反而更好。

愛着は感じていても、その作品集の内容を、最上質のものとは思っていないからである。

虽然我对它怀有感情,但我并不认为这本作品集里的作品都是上乘之作。

冷厳の鑑賞には、とても堪えられる代物ではないのである。

用严苛的眼光来看,它实在不算什么佳作。

謂わば、だらしない作品ばかりなのである。

可以说,里面都是些粗制滥造之作。

けれども、作者の愛着は、また自ら別のものらしく、私は時折、その甘ったるい創作集を、こっそり机上に開いて読んでいる事もあるのである。

不过,作者对它的感情似乎又有所不同。有时,我也会偷偷翻开这本甜腻的创作集,读上一读。

その創作集の中でも、最も軽薄で、しかも一ばん作者に愛されている作品は、すなわち、冒頭に於いて述べた入江新之助氏の遺家族から暗示を得たところの短篇小説であるというわけなのである。

在这本创作集中,我最不喜欢的、同时也是作者最钟爱的作品,就是前面提到的、从入江新助先生的遗属那里获得灵感的小说。

もとより軽薄な、たわいの無い小説ではあるが、どういうわけだか、私には忘れられない。

虽然这是一部本质上轻松、缺乏深度的作品,但不知为何,我始终难以忘怀。

――兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。

——家里有五个兄弟姐妹,他们都喜欢浪漫故事。

長男は二十九歳。

长子今年29岁了。

法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。

他是法学学士。与人交往时,他总有种自命不凡的坏毛病,但这其实是他掩饰自己脆弱的伪装。实际上,他内心很脆弱,却又特别善良。

弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ、愚作だと言いながら、その映画のさむらいの義理人情にまいって、まず、まっさきに泣いてしまうのは、いつも、この長兄である。

每次和兄弟姐妹们去看电影,他们都会说这部电影很糟糕、很愚蠢,但每次都是这位长兄最先被电影中感人的亲情情节感动得流下眼泪。

それにきまっていた。

这几乎成了他的固定模式。

映画館を出てからは、急に尊大に、むっと不機嫌になって、みちみち一言も口をきかない。

看完电影后,他会突然变得自命不凡、脾气暴躁,一句话也不说。

生れて、いまだ一度も嘘言というものをついた事が無いと、躊躇せず公言している。

他毫不犹豫地宣称,自己从出生到现在,从来没有说过谎话。

それは、どうかと思われるけれど、しかし、剛直、潔白の一面は、たしかに具有していた。

这听起来有些难以置信,但他确实具备刚正不阿、清正廉洁的品格。

学校の成績はあまりよくなかった。

他在学校的成绩并不出色。

卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。

毕业后,他没有去任何地方工作,而是坚定地守护着自己的家庭。

イプセンを研究している。

他正在研究易卜生。

このごろ「人形の家」をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。

最近,他又重读了《玩偶之家》,发现了许多深刻的见解,兴奋不已。

ノラが、あのとき恋をしていた。

诺拉当时正陷入热恋。

お医者のランクに恋をしていたのだ。

她爱上的是一位医生。

それを発見した。弟妹たちを呼び集めてそのところを指摘し、大声叱咤、説明に努力したが、徒労であった。

他发现了这一点后,把兄弟姐妹们召集起来,指出其中的端倪,大声训斥他们,并努力向他们解释,但一切都是徒劳的。

弟妹たちは、どうだか、と首をかしげて、にやにや笑っているだけで、一向に興奮の色を示さぬ。

兄弟姐妹们似乎不太明白,只是摇着头,傻笑着,根本没有表现出任何兴奋之情。

いったいに弟妹たちは、この兄を甘く見ている。

看来这些兄弟姐妹对哥哥还是太放纵了。

なめている風がある。

他们似乎对他有种依赖心理。

長女は、二十六歳。

长女今年26岁。

いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。

至今仍未出嫁,每天都要去铁道部上班。

フランス語が、かなりよく出来た。

她的法语说得相当不错。

背丈が、五尺三寸あった。

她的身高是5尺3寸。

すごく、痩せている。

她非常瘦。

弟妹たちに、馬、と呼ばれる事がある。

兄弟姐妹们有时会叫她“马”。

髪を短く切って、ロイド眼鏡をかけている。

她把头发剪短了,还戴着罗伊德牌眼镜。

心が派手で、誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕して、捨てられる。それが、趣味である。

她性格外向,喜欢和别人交朋友,总是竭尽全力地帮助别人,却总被抛弃。这就是她的爱好。

憂愁、寂寥の感を、ひそかに楽しむのである。

她还暗自享受着忧伤和孤独的感觉。

けれどもいちど、同じ課に勤務している若い官吏に夢中になり、そうして、やはり捨てられた時には、その時だけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲンで精細にしらべられ、稀に見る頑強の肺臓であるといって医者にほめられた。

不过,有一次,她迷恋上了一位同科的年轻官员。结果,当她再次被抛弃时,她终于彻底崩溃了。她谎称自己肺部出了问题,整整一周都卧床休息,脖子上还缠着绷带,拼命咳嗽。去看医生时,医生用X光仔细检查了她的肺部,还称赞她的肺部非常健康,坚韧无比。

文学鑑賞は、本格的であった。

她对文学的鉴赏能力也相当高超。

実によく読む。

她读得非常仔细。

洋の東西を問わない。

无论是西方文学还是东方文学,她都如数家珍。

ちから余って自分でも何やら、こっそり書いている。

她自己也写过一些东西,虽然写得不多,但也颇有心得。

それは本箱の右の引き出しに隠して在る。

这些作品都藏在书柜右边的抽屉里。

逝去二年後に発表のこと、と書き認められた紙片が、その蓄積された作品の上に、きちんと載せられているのである。

在她去世两年后,人们发现她生前积存的作品上整齐地摆放着一张纸条,上面写着:这些作品将在她去世两年后公开发表。

二年後が、十年後と書き改められたり、二ヶ月後と書き直されたり、ときには、百年後、となっていたりするのである。

有时,这张纸条会被改写成“十年后公开发表”,有时又改成“两个月后公开发表”,甚至有时会写成“百年后公开发表”。

次男は、二十四歳。

她的次子今年24岁。

これは、俗物であった。

这真是个俗气的人啊。

帝大の医学部に在籍。けれども、あまり学校へは行かなかった。

他在帝国大学医学院就读,但却很少去上课。

からだが弱いのである。

因为他身体太弱了。

これは、ほんものの病人である。

这才是真正意义上的病人啊。

おどろくほど、美しい顔をしていた。

他长得出奇地漂亮。

吝嗇である。

他是个吝啬鬼。

長兄が、ひとにだまされて、モンテエニュの使ったラケットと称する、へんてつもない古いラケットを五十円に値切って買って来て、得々としていた時など、次男は、陰でひとり、余りの痛憤に、大熱を発した。

有一次,大哥被别人骗了,花50日元买了一支据说是蒙特尼尤用过的、奇形怪状的旧球拍,还沾沾自喜地拿去炫耀。次子听说后,气得发高烧,独自在角落里痛骂个不停。

その熱のために、とうとう腎臓をわるくした。

结果因为这次发烧,他的肾脏彻底坏了。

ひとを、どんなひとをも、蔑視したがる傾向が在る。

他总是想贬低别人,无论对方是谁。

ひとが何かいうと、けッという奇怪な、からす天狗の笑い声に似た不愉快きわまる笑い声を発するのである。

别人一说话,他就会发出一种奇怪的、令人不适的笑声,仿佛乌鸦般阴森的笑声。

ゲエテ一点張りである。

他是个固执己见的人。

これとても、ゲエテの素朴な詩精神に敬服しているのではなく、ゲエテの高位高官に傾倒しているらしい、ふしが、無いでもない。

这倒不是因为他对歌德质朴的诗歌精神心怀敬意,而是他对歌德的显赫地位十分推崇。这种偏好说有也罢,说没有也罢。

あやしいものである。

真是令人费解啊。

けれども、兄妹みんなで、即興の詩など競作する場合には、いつでも一ばんである。

不过,每当兄弟姐妹们即兴创作诗歌时,他总是最出色的。

出来ている。

他确实很擅长写诗。

俗物だけに、謂わば情熱の客観的把握が、はっきりしている。

说起来,他就是个俗人,对激情的客观把握非常清晰。

自身その気で精進すれば、あるいは二流の作家くらいには、なれるかも知れない。

只要他肯下功夫,或许就能成为二流作家了。

この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。

这家里的那个十七岁的女佣,简直把他捧上了天。

次女は、二十一歳。ナルシッサスである。

二女儿21岁了,是个自恋狂。

ある新聞社が、ミス・日本を募っていた時、あの時には、よほど自己推薦しようかと、三夜身悶えした。

有家报社在招募“日本小姐”时,他曾纠结了三个晚上,到底要不要毛遂自荐。

大声あげて、わめき散らしたかった。

他当时真想大声叫喊,发泄心中的郁闷。

けれども、三夜の身悶えの果、自分の身長が足りない事に気がつき、断念した。

但经过三个晚上的深思熟虑,他意识到自己的身高不够,索性放弃了这个念头。

兄妹のうちで、ひとり目立って小さかった。四尺七寸である。

在兄弟姐妹中,他是唯一个个头特别矮的。他身高只有四尺七寸。

けれども、決して、みっともないものではなかった。

不过,这也并非什么丢脸的事。

なかなかである。

这实在太难了。

深夜、裸形で鏡に向い、にっと可愛く微笑してみたり、ふっくらした白い両足を、ヘチマコロンで洗って、その指先にそっと自身で接吻して、うっとり眼をつぶってみたり、いちど鼻の先に、針で突いたような小さい吹出物して、憂鬱のあまり、自殺を計った事がある。

深夜,他赤身裸体对着镜子,笑得十分可爱。他用肥皂泡洗着自己白皙丰满的双腿,轻轻吻着自己的指尖,迷迷糊糊地闭上眼睛。还有一次,他鼻尖上突然冒出一个小红疹子,情绪低落到想自杀。

読書の撰定に特色がある。

他在选书方面很有眼光。

明治初年の、佳人之奇遇、経国美談などを、古本屋から捜して来て、ひとりで、くすくす笑いながら読んでいる。黒岩涙香、森田思軒などの飜訳をも、好んで読む。

他从旧书店淘来明治初年的一些佳话和美谈,独自一人津津有味地阅读。他还特别喜欢读黑岩涙香和森田思軒等人的翻译作品。

どこから手に入れて来るのか、名の知れぬ同人雑誌をたくさん集めて、面白いなあ、うまいなあ、と真顔で呟きながら、端から端まで、たんねんに読破している。

他还收集了许多不知名的小众杂志,认真地从头到尾读完,嘴里还不停地感叹:“真有意思啊!真不错啊!”

ほんとうは、鏡花をひそかに、最も愛読していた。

其实,他最爱读的还是《镜花缘》。

末弟は、十八歳である。

最小的弟弟今年十八岁了。

ことし一高の、理科甲類に入学したばかりである。高等学校へはいってから、かれの態度が俄然かわった。

他今年刚考入一高理科班。自从上了高中,他的态度就突然变了。

兄たち、姉たちには、それが可笑しくてならない。

他的哥哥们和姐姐们都觉得他这样子十分可笑。

けれども末弟は、大まじめである。

不过,最小的弟弟还是很认真的。

家庭内のどんなささやかな紛争にでも、必ず末弟は、ぬっと顔を出し、たのまれもせぬのに思案深げに審判を下して、これには、母をはじめ一家中、閉口している。いきおい末弟は一家中から敬遠の形である。末弟には、それが不満でならない。

家里无论发生什么小矛盾,最小的弟弟总会插嘴,尽管别人没请他帮忙,但他还是会一脸严肃地评判一番。结果,家里所有人都拿他没辙。渐渐地,全家人都敬而远之了。对此,最小的弟弟颇为不满。

長女は、かれのぶっとふくれた不機嫌の顔を見かねて、ひとりでは大人になった気でいても、誰も大人と見ぬぞかなしき、という和歌を一首つくって末弟に与えかれの在野遺賢の無聊をなぐさめてやった。

大女儿看他总是闷闷不乐,心里很不是滋味。她独自一人写了一首俳句送给他,诗中写道:“虽然大家都说你长大了,但没人把你当大人看。” 这首俳句让最小的弟弟找到了生活的乐趣。

顔が熊の子のようで、愛くるしいので、きょうだいたちが、何かとかれにかまいすぎて、それがために、かれは多少おっちょこちょいのところがある。

他长得像熊宝宝一样可爱,惹人喜爱。所以大家都特别关心他,这也让他有些调皮捣蛋。

探偵小説を好む。

他特别喜欢侦探小说。

ときどきひとり部屋の中で、変装してみたりなどしている。

有时他会独自在房间里变装玩耍。

語学の勉強と称して、和文対訳のドイルのものを買って来て、和文のところばかり読んでいる。

他买了道尔作品的日文译本,声称是学习语言,但他只读日文部分。

きょうだい中で、家のことを心配しているのは自分だけだと、ひそかに悲壮の感に打たれている。――

他暗自感叹,家里只有他一个人操心家里的事务。

以上が、その短篇小説の冒頭の文章であって、それから、ささやかな事件が、わずかに展開するという仕組みになっていたのであるが、それは、もとよりたわいの無い作品であった事は前にも述べた。

以上是那篇短篇小说的开头段落。故事围绕一个小插曲展开,但正如前面所说,这篇作品本质上没什么深意。

私の愛着は、その作品に対してよりも、その作中の家族に対してのほうが強いのである。

我对这部作品的喜爱,更多的是源于对书中家庭的深切情感。

私は、あの家庭全体を好きであった。

我喜欢整个家庭的每一个人。

たしかに、実在の家庭であった。

当然,那是一个真实存在的家庭。

すなわち、故人、入江新之助氏の遺家族のスケッチに違いないのである。

更确切地说,那应该是已故作家英江新助先生的遗孀及其家人的素描。

もっとも、それは必ずしも事実そのままの叙述ではなかった。

不过,作者对这个家庭的描述未必完全忠实于现实。

大げさな言いかたで、自分でも少からず狼狽しながら申し上げるのであるが、謂わば、詩と真実以外のものは、適度に整理して叙述した、というわけなのである。

说得夸张一点,我自己也对此颇感尴尬。但可以这么说——除了诗意和真实之外,作者还对素材进行了适当的整理和润色。

ところどころに、大嘘をさえ、まぜている。

甚至还夹杂了一些虚构的成分。

けれども、大体は、あの入江の家庭の姿を、写したものだ。

但总体而言,作者所描绘的正是英江家族的真实面貌。

一毛に於いて差異はあっても、九牛に於いては、リアルであるというわけなのだ。

虽说细节上可能存在偏差,但整体而言,所描绘的场景都是真实存在的。

もっとも私は、あの短篇小説に於いて、兄妹五人と、それから優しく賢明な御母堂に就いてだけ書いたばかりで、祖父ならびに祖母の事は、作品構成の都合上、無礼千万にも割愛してしまっているのである。

不过,在这部短篇小说中,我只写了五个兄弟姐妹,以及他们善良而明智的母亲。出于情节需要,我无情地省略了祖父和祖母的部分。

これは、たしかに不当なる処置であった。

这确实是一种不恰当的处理方式。

入江の家を語るのに、その祖父、祖母を除外しては、やはり、どうしても不完全のようである。

要讲述英江家族的故事,若不提及祖父和祖母,那显然是不完整的。

私は、いまはそのお二人に就いても語って置きたいのである。

现在,我想把祖父和祖母的故事也讲出来。

そのまえに一つお断りしなければならない事がある。

但在此之前,我必须先说明一点。

それは、私の之からの叙述の全部は、現在ことしの、入江の家の姿ではなく、四年前に私がひそかに短篇小説に取りいれたその時の入江の家の雰囲気に他ならないという一事である。いまの入江家は、少し違っている。

那就是,我所描述的全部内容,都不是英江家族如今的模样,而是四年前我写短篇小说时所描绘的英江家族的氛围。如今的英江家族已经有所不同了。

結婚した人もある。

有些人已经结婚了。

亡くなられた人さえある。

甚至还有人已经去世了。

四年以前にくらべて、いささか暗くなっているようである。

与四年前相比,英江家族似乎变得更加阴暗了。

そうして私も、いまは入江の家に、昔ほど気楽に遊びに行けなくなってしまった。

因此,我现在再也无法像以前那样随心所欲地去英江家玩耍了。

つまり、五人の兄妹も、また私も、みんなが少しずつ大人になってしまって、礼儀も正しく、よそよそしく、いわゆる、あの「社会人」というものになった様子で、お互い、たまに逢っても、ちっとも面白くないのである。

换句话说,五个兄弟姐妹,还有我自己,都逐渐长大成人,变得彬彬有礼、冷漠疏远,成了所谓的“职场人士”。即使偶尔见面,也毫无趣味可言。

はっきり言えば、現在の入江家は、私にとって、あまり興味がないのである。

说白了,如今的英江家族对我来说,实在是提不起什么兴趣。

書くならば、四年前の入江家を書きたいのである。

如果要写作的话,我更想写四年前的英江家族。

それゆえ、私の之から叙述するのも、四年前の入江の家の姿である。現在は、少し違っている。

因此,我所描述的也都是四年前英江家族的样子。如今的英江家族,已经有所不同了。

それだけをお断りして置いて、さて、その頃の祖父は、――毎日、何もせずに遊んでばかりいたようである。

先说到这儿吧。那时候的祖父,似乎每天除了玩耍,什么事也不做。

もし入江の家系に、非凡な浪曼の血が流れているとしたならば、それは、此の祖父から、はじまったものではないかと思われる。

如果说英江家族有非凡的浪漫气息的话,那么这种气息很可能就始于这位祖父了。

もはや八十を過ぎている。

如今,他已经年过八旬了。

毎日、用事ありげに、麹町の自宅の裏門から、そそくさと出掛ける。

每天,他都会假装有事,从位于新宿的自家后门溜出去。

実に素早い。

动作真是迅速。

この祖父は、壮年の頃は横浜で、かなりの貿易商を営んでいたのである。

这位祖父年轻时在横滨做过生意,是个相当成功的商人。

令息の故新之助氏が、美術学校へ入学した時にも、少しも反対せぬばかりか、かえって身辺の者に誇ってさえいたというほどの豪傑である。

当他的儿子新助先生进入美术学校学习时,他不仅不反对,反而还为此感到自豪,真是位豪爽之人。

としとって隠居してからでも、なかなか家にじっとしてはいない。

即便隐居之后,他也很少待在家里。

家人のすきを覗っては、ひらりと身をひるがえして裏門から脱出する。

他会趁家人不注意的时候,迅速溜出后门。

すたすた二、三丁歩いて、うしろを振り返り、家人が誰もついて来ないという事を見とどけてから、懐中より鳥打帽をひょいと取出して、あみだにかぶるのである。

他会轻快地走上两三条街,回头看看,确认家人没有跟上来,然后从口袋里掏出鸟形帽子,戴在头上。

派手な格子縞の鳥打帽であるが、ひどく古びている。

这顶鸟形帽子是花哨的格子花纹款式,但已经很旧了。

けれども、これをかぶらないと散歩の気分が出ないのである。

不过,不戴这顶帽子,他就没心情出去散步了。

四十年間、愛用している。

他已经戴了四十年了。

これをかぶって、銀座に出る。

戴上这顶帽子,他就会去银座逛逛。

資生堂へはいって、ショコラというものを注文する。ショコラ一ぱいに、一時間も二時間も、ねばっている。

他会去资生堂,点一杯巧克力,然后慢慢品尝,一待就是一两个小时。

あちら、こちらを見渡し、むかしの商売仲間が若い芸妓などを連れて現れると、たちまち大声で呼び掛け、放すものでない。無理矢理、自分のボックスに坐らせて、ゆるゆると厭味を言い出す。

他会四处张望,如果看到以前的生意伙伴带着年轻的艺妓出现,就会立刻大声招呼他们,非要他们坐到自己的包厢里,然后没完没了地抱怨。

これが、怺えられぬ楽しみである。

这就是他无法抗拒的乐趣。

家へ帰る時には、必ず、誰かに僅かなお土産を買って行く。やはり、気がひけるのである。

回家的时候,他总会给别人买点小礼物带回去。毕竟,他总会忍不住这样做。

このごろは、めっきり又、家族の御機嫌を伺うようになった。

最近,他又开始频繁地关心家人的情绪了。

勲章を発明した。

他还发明了一种勋章。

メキシコの銀貨に穴をあけて赤い絹紐を通し、家族に於いて、その一週間もっとも功労のあったものに、之を贈呈するという案である。

他打算在墨西哥的银币上钻个洞,穿上红丝带,然后把它送给家里一周内表现最出色的人。

誰も、あまり欲しがらなかった。

不过没人太想要这枚勋章。

その勲章をもらったが最後、その一週間は、家に在るとき必ず胸に吊り下げていなければいけないというのであるから、家族ひとしく閉口している。

最后,得到这枚勋章的人必须在一周内一直佩戴在胸前,所以全家人都对此保持沉默。

母は、舅に孝行であるから、それをもらっても、ありがたそうな顔をして、帯の上に、それでもなるべく目立たないように吊り下げる。祖父の晩酌のビイルを一本多くした時には、母は、いや応なしに、この勲章をその場で授与されてしまうのである。

母亲因为孝顺公公,所以即使得到了勋章,也会装作很感激的样子,把它挂在腰带上,尽量不显眼。有一次祖父多喝了一瓶酒,母亲就顺势把勋章授予了他。

長兄も、真面目な性質であるから、たまに祖父の寄席のお伴の功などで、うっかり授与されてしまう事があっても、それでも流石に悪びれず、一週間、胸にちゃんと吊り下げている。

大哥性格严谨,即使偶尔因为陪祖父参加聚会而被授予勋章,也会坦然接受,并在一周内一直佩戴在胸前。

長女、次男は、逃げ廻っている。

大女儿和二儿子则总是想方设法逃避这些事。

長女は、私にはとてもその資格がありませんからと固辞して利巧に逃げている。

大女儿巧妙地推辞说自己不配得到勋章,然后顺利逃脱了。

殊に次男は、その勲章を自分の引出しにしまい込んで、落したと嘘をついた事さえある。祖父は、たちまち次男の嘘を看破し、次女に命じて、次男の部屋を捜査させた。

二儿子更是把勋章藏在自己的抽屉里,甚至谎称把它弄丢了。祖父很快识破了二儿子的谎言,便命令二女儿去搜查二儿子的房间。

次女は、運わるくそのメダルを発見したので、こんどは、次女に贈呈された。

二女儿幸运地找到了那枚勋章,于是勋章最终被授予了她。

祖父は、この次女を偏愛している様子がある。次女は、一家中で最もたかぶり、少しの功も無いのに、それでも祖父は、何かというと此の次女に勲章を贈呈したがるのである。次女は、その勲章をもらうと、たいてい自分の財布の中に入れて置く。

祖父似乎对二女儿格外偏爱。在家里,二女儿最受宠爱,即便她没有做出什么贡献,祖父还是总想把勋章授予她。二女儿每次得到勋章后,都会把它放在自己的钱包里。

祖父は、次女にだけは、そんな除外例を許可するのである。

祖父就是这样只允许二女儿享受这种特殊待遇的。

胸に吊り下げずとも、いいのである。

即使不佩戴勋章,也无伤大雅。

一家中で、多少でも、その勲章を欲しいと思っているのは、末弟だけである。

家里唯一想得到勋章的,就是小儿子了。

末弟も流石にそれを授与されて胸に吊り下げられると、何だか恥ずかしくて落ちつかない気がするのだけれど、それを取り上げられて誰か他の人に渡される時には、ふっと淋しくなるのである。

小儿子得到勋章后,也会不好意思地佩戴在胸前。但当勋章被别人拿走时,他又会感到莫名的失落。

次女の留守に、次女の部屋へこっそりはいっていって財布を捜し出し、その中のメダルを懐しそうに眺めている時もある。

有时趁二女儿不在,他会偷偷溜进她的房间,翻找她的钱包,满意地看着里面的勋章。

祖母は、この勲章を一度も授与された事が無い。

祖母从未获得过勋章。

はじめから、きっぱり拒否しているのである。

她从一开始就断然拒绝了。

ひどく、はっきりした人なのである。

她是个非常坚定、毫不妥协的人。

ばからしい、と言っている。

她常说:“这太丢脸了。”

この祖母は、末弟を目にいれても痛くないほど可愛がっている。末弟が一時、催眠術の研究をはじめて、祖父、母、兄たち姉たち、みんなにその術をかけてみても誰も一向にかからない。

祖母特别疼爱小儿子,疼爱到不忍心看他受一点委屈。有一次,小儿子开始研究催眠术,他想给祖父、母亲、哥哥姐姐们都催眠,但结果一个人也没被催眠成功。

みんな、きょろきょろしている。

大家都清醒得很。

大笑いになった。末弟ひとり泣きべそかいて、汗を流し、最後に祖母へかけてみたら、たちまちにかかった。

结果大家都哈哈大笑。只有小儿子一个人哭得鼻涕眼泪直流,汗流浃背,最后他试着给祖母催眠,祖母立刻就被催眠了。

祖母は椅子に腰かけて、こくりこくりと眠りはじめ、術者のおごそかな問いに、無心に答えるのである。

祖母坐在椅子上,打着呼噜,睡着了。面对催眠师的提问,她也只是漫不经心地回答。

「おばあさん、花が見えるでしょう?」

“奶奶,你能看到花吗?”

「ああ、綺麗だね。」

“哦,真漂亮。”

「なんの花ですか?」

“这是什么花?”

「れんげだよ。」

“是兰花。”

「おばあさん、一ばん好きなものは何ですか?」

“奶奶,你最喜欢的东西是什么?”

「おまえだよ。」

“就是你呀。”

術者は、少し興覚めた。

催眠师有点失望了。

「おまえというのは、誰ですか?」

“你说的是谁?”

「和夫(末弟の名)じゃないか。」

“不就是和夫(小弟的名字)吗?”

傍で拝見していた家族のものが、どっと笑い出したので、祖母は覚醒した。それでも、まず、術者の面目は、保ち得たのである。とにかく祖母だけは、術にかかったのだから。でも、あとで真面目な長兄が、おばあさん、本当にかかったのですか、とこっそり心配そうに尋ねたとき、祖母は、ふんと笑って、かかるものかね、と呟いた。

旁边观看的家人突然哈哈大笑,奶奶这才清醒过来。不过好在催眠师的面子保住了。毕竟只有奶奶被催眠了。不过后来大哥认真地问:“奶奶,你真的被催眠了吗?” 奶奶只是哼了一声,说:“被催眠了呗。”

以上が、入江家の人たち全部のだいたいの素描である。

以上就是井江家所有人的大致情况了。

もっと、くわしく紹介したいのであるが、いまは、それよりも、この家族全部で連作した一つの可成り長い「小説」を、お知らせしたいのである。

我本想更详细地介绍他们,但现在,我更想向大家介绍这部由全家共同参与创作的长篇“小说”。

入江の家の兄妹たちは、みんな、多少ずつ文芸の趣味を持っている事は前にも言って置いた。

前面已经说过,井江家的兄弟姐妹都或多或少对文学感兴趣。

かれらは時々、物語の連作をはじめる事がある。

他们有时会开始合作创作故事。

たいてい、曇天の日曜などに、兄妹五人、客間に集っておそろしく退屈して来ると、長兄の発案で、はじめるのである。ひとりが、思いつくままに勝手な人物を登場させて、それから順々に、その人物の運命やら何やらを捏造していって、ついに一篇の物語を創造するという遊戯である。

通常在阴天周日这样的日子里,五个兄弟姐妹聚在客厅里,感到无聊透顶。这时大哥就会提议开始创作。一个人随意地构思出一个角色,然后其他人依次编造这个角色的命运,最终创作出一篇故事。

簡単にすみそうな物語なら、その場で順々に口で言って片附けてしまうのであるが、発端から大いに面白そうな時には、大事をとって、順々に原稿用紙に書いて廻すことにしている。

如果故事比较简单,他们就会当场口述完成。但如果故事看起来很有趣,他们就会认真地把故事写在稿纸上。

そのような、かれら五人の合作の「小説」が、すでに四、五篇も、たまっている筈である。

这样,由五个人合作创作的“小说”,应该已经有四五篇了。

たまには、祖父、祖母、母もお手伝いする事になっている。

偶尔,爷爷、奶奶和妈妈也会帮忙创作。

このたびの、やや長い物語にも、やはり、祖父、祖母、母のお手伝いが在るようである。

这次创作的较长篇幅的故事,似乎也有爷爷、奶奶和妈妈的帮助。

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その一

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